作業の罠

作業というのはやりだすと時間を忘れて没頭してしまうことがある。
時間がいくらでもあれば問題ないのだが残念ながら時間には常に限りがある。

今日は作業の罠について書いてみたいと思う。

「作業の罠に陥らないようにしよう。」
これは私がNPOで活動をしている際によく言われる言葉である。

そのNPOでは毎年、若手社会人と学生向けのビジネスプランコンテストを開催している。
私は毎年運営に関わっているのだが、その準備の中で、事務備品の集計という仕事がある。

備品集計とはNPOのイベント運営で必要な備品の数を数えて、足りないものがあれば発注するという仕事だ。この何も考えずに始めてしまうと、全ての備品を端から数え始めて最終的には2~3時間はかかる。実はこの作業にはコツがある。普通にやると時間の掛かる作業なのだが、ポイントを押さえておけば30分程度で終えることができる。

まず、集計する備品を「消耗品」と「耐久品」に分ける。
さらに「消耗品」を「現地調達できるもの」と「事前に発注しておかないといけないもの」に分ける。

「耐久品」は致命的に数が不足していなければ、すぐ使えなくなることはないので確認は最低限壊れていないかや使えない状態でないかの確認を行い、あとは前年とほぼ数は同じである。
「消耗品」でも「現地調達できるもの」は同じく予備が少なかったとしても、必要最低限揃っていれば問題ない。最終的に、「事前に発注しておかないと現地で調達することができないもの」に絞って確認を行えば、端から全て数える場合に比べて4~6倍の効率で作業ができる。

それでは発注するもの以外の数が正確に分からないし手抜きではないか、という意見もあるかもしれない。ただ、これは手を抜いているのではない。やるべきことの目的から作業を分解してメリハリをつけているのである。外してはいけない重要なところを押さえておくことで、目的を最小のコストで達成することができる。

備品集計の最終目的は、イベント運営するのに足りない備品を発注することなので、備品を端から全て数えることが目的なのではない。馬鹿にすることなかれ、作業の目的を考えない人はこの作業の罠に簡単に陥ってしまうし、会社の中でも同じことはしょっちゅう起きている。

冒頭に書いた通り、時間が無制限であれば問題ないかもしれない。
実は、NPOでやっているビジネスプランコンテストは二泊三日間という短期間で実在の企業を題材に事業提案をしてくださいというものだ。若手社会人や学生にとって、この与えられている二泊三日間はビジネスプランを考えるのには大分短い。ただし、実際のビジネスにおいても時間が無限にあるという前提はあり得ないので、社会人になっても同じような制約下で仕事をする場面は遅かれ早かれ出てくるはずだ。二泊三日間だからこそ、事前にやっておくべきことと当日やることを色分けしてメリハリをつける必要がある。

また、ビジネスプランコンテストで学生にグループワークをしてもらっていると、インターネットで調べごとを始めて延々に作業している場面を見かける。ネットに答えがあるわけではないと言っても調べ続けてしまうことがある。

ではインターネットを使わせないようにするかというと、そうではない。今の時代インターネットがない世界というのは存在しないのだから、使えるものは使ったら良い。ただ、何の目的で調べているのか、何の情報を得たいのか決めてから調査をしなければ目的なき作業となり延々時間がかかる。

これは仕事でも同様で、目的が明確でない作業に溺れて土日出社や徹夜を繰り返しても分かるのは体力の限界がどこで訪れるかぐらいである。よく若手の社会人は夜遅くまで作業をして、翌日体調がすぐれないということを言うが、夜はきっぱり帰って土日はメリハリをつけて遊んだほうが良い。そのほうが仕事が捗るし、短時間で仕事を終わらせていればこいつはできると思われて周りからの評価も上がる。

話が逸れたので、戻そう。

作業の罠とはまさに、目的を考えず、ただ作業することが目的になってしまっている状態のことだ。
備品の集計で言えば目的を考えず作業をし始めて、端から全て数え出してしまうことを言う。

是非、この作業の罠にははまらずに目的を考えて仕事をしたい。
目的を考えるとは、つまり「なぜ」この作業をしているのかを考えるということだ。

言い尽くされた言葉かもしれないが「なぜを5回繰り返せ」とは至極本質的な考え方なのだ。

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エンジニアとして世界の最前線で働く選択肢

エンジニアとして世界の最前線で働く選択肢
~渡米・面接・転職・キャリアアップ・レイオフ対策までの実践ガイド
竜盛博 (著)

ソフトウェアエンジニアが米国で働く場合の諸々のtipsをまとめた本です。
内容は「雇用」から「職場環境」や「解雇」まで一連の流れで書かれています。

この本を読んで私が思うのは、ソフトウェアエンジニアにおいては意外と日本と米国で働くことの違いは薄まりつつあるのではないかということです。

・アメリカ企業での雇用の特徴
本で書かれているアメリカで働くことの例にコーディング面接や中途採用時の給与交渉、360度評価などが上げられています。

これらはたまたまかもしれませんが、私の働く職場(ソフトウェア企業)では普通に行われています。

・雇用の流動性
それ以外に雇用の流動性(解雇されやすい)もありますがこれはある意味、日本でも協力会社という形で現れていて、会社の事業が危うくなると普通にレイオフのような形で協力会社から外されていきます。

また、アメリカのエンジニアは解雇後の再就職先で同じようなソフトウェア企業に勤めることが多いという例もGREEやDeNAやCyberAgentなどの間で行き来するエンジニアの話を日本でよく聞きます。また、私の職場では一度辞めたけど同じ会社に出戻るという人は普通にいます。

・多様性
シリコンバレーでは技術系ポジションでのアジア人の比率が2012年に50%を超えて国籍の多様化が進んでいるそうです。

この点についてはまだまだ差は大きいものの、私の同僚には日本以外の国籍の人もいて社内で普通に英語を使って仕事をしている部署もあります。欧米系の社員は圧倒的に少ないものの、海外オフィスに行けば当然日本人以外の社員の方が多いです。

・まとめ
勿論、日本とアメリカでは言語や一般的な文化背景は異なるし正社員雇用の流動性という意味では大きな違いがあると思います。ただ、読んでいてそういった部分以外での違いはあまり感じないという印象を持ちました。

本の中でも、まえがきで日本のソフトウェア業界で人材の流動化が進んでいるという話は触れられています。著者の方は10年以上アメリカで働いているため、もしかするともう一度日本で働いてみたら違いが薄まっていると感じるかもしれません。

私自身、アメリカのソフトウェア企業で働いたことがあるわけではないので実際の現場はまだまだ多くの違いがあるだろうとは思います。あくまで一個人が読んでみた感想として、自分がソフトウェアエンジニアとして働く環境は日本とアメリカで共通する部分も多いなと感じたという話です。

この本の趣旨は「アメリカで働くということはどういうことか?」を伝える内容なので、その意味では良著であり興味深い情報が沢山書かれています。日本で働くソフトウェアエンジニアや、技術者に限らずアメリカで働きたいと思っている方にはとてもお薦めの本です。

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The DevOps 逆転だ!究極の継続的デリバリー

「ザ・ゴール」をシステム開発プロジェクトで書いた場合の物語。
ソフトウェアアプリケーションが開発されて顧客に利用されるまでのリードタイムを短くするという取り組みの中で、製造業で適用されている制約条件理論をソフトウェア開発にも応用できるということが説明されています。

「制約条件の理論」は製品の製造過程で制約となっているボトルネックを見つけ出し、制約を底上げしていくという考え方です。かなり省略した説明ですが、製造業に限らず様々な物事に適用できる話です。

組織で言うと、一番弱い人にその組織の全体の力が引っ張られるので、そこを見つけ出して強化するというイメージでしょうか。本の中では逆に、一人のトップエンジニアに色々な仕事が集中してそこがボトルネックになっているというケースが描かれています。システム開発の現場ではありがちなシーンです。なので、弱いとか強いとかではなくあくまで全体のボトルネックになっている箇所が制約ということになります。

ここで重要なのは、個別の問題に注目して解決するのではなく全体の「ゴール(目的)」から考えて制約となっている箇所を解決していくという全体最適の視点を持つということです。まさに「ザ・ゴール」ですね。「制約条件の理論」は前述の「ザ・ゴール」という本で詳しく書かれているので読んでみると面白いと思います。

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

今回、紹介している本の流れは「ザ・ゴール」と同じで主人公とメンターが登場して、メンターのアドバイスによって主人公が導かれていくという内容です。ただ、どちらも物語形式で書かれているため読むのにとても時間が掛かります。

この本のタイトルのDevOpsという言葉は本の中ではあまり使われておらず定義も曖昧なので、どちらかというとアジャイル開発と言われたほうが近い印象です。

※DevOpsはDevelopment(開発)とOperation(運用)を合わせた造語

本書は制約条件理論をITに適用するという話ですが、その観点以外でもソフトウェアの開発現場がどういったものかというのがフィクションとはいえ、かなり鮮明に描かれています。
ソフトウェア開発の現場を知るという意味でもかなり面白い本です。

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サラリーマン・サバイバル

サラリーマン・サバイバル
大前 研一 (著)

新刊のとき、本の帯に書かれていた謳い文句は『大前研一の仕事のやり方』を始めて詳細に明かしたものであるとのことでした。仕事の仕方として『今日やると決めたことは明日に残さない』や『全体の仕事を100として、部下が3しかできなかったら残り97は自分がやる』といった姿勢が紹介されています。

ただ、15年以上前に出版された本書が伝えている重要な内容は、安定して稼げると思われている職業でもいままでのルールではもう生きては行けない時代になってきたから、新たな方法で生き残っていく必要があるということです。

例として弁護士や会計士の仕事の9割がソフトウェアによって置き換えられるという予想がされていますが、この話は的中しつつあります。最近になって米国では法定で使う論証文書を探し出す弁護士事務の仕事が人工知能に置き換えられてきているという話がNHKスペシャルで紹介されています。

NHKスペシャル ネクストワールド 私たちの未来 第1回 未来はどこまで予測できるのか

弁護士のように知識労働と思われているような仕事でも付加価値の残る部分は一部となってきているのです。

『生きるか死ぬかは、知的な体力しだい』
『知的に怠惰になったら将来はない』

こうしたメッセージには、向学心は死ぬまで失ってはいけないという示唆が含まれています。あらたなルールの世界で生き残っていくための思考力を身に着けていく必要性を強く感じる本です。

※リンク先の番組は知人から「是非お金払ってでもみて!」とお薦めしてもらったものです。

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「最高の授業」を、 世界の果てまで届けよう

「最高の授業」を、 世界の果てまで届けよう
税所篤快 (著)

途上国の教育支援を行うNPO「e-Education」。この団体は著者が19歳のときにグラミン銀行の活動に関わって、教育格差の激しいバングラディシュでDVDを使った映像授業を展開するプロジェクトが始まりです。

もともとのきっかけは失恋だったそうですが、彼はグラミン銀行の日本人コーディネーターとしてバングラディッシュに赴任した際に農村部で教師が不足している問題に気づいたそうです。その後、グラミン銀行創設者のムハマド・ユヌス氏に映像授業の提案して「Do It ! Do It ! Go Ahead!!!」という言葉をもらいプロジェクトは始まっています。

紆余曲折あり現在はグラミン銀行とは離れて事業を行っています。初年度はバングラディシュで最難関のダッカ大学の合格者を出します。その後、活動は中東のヨルダンやルワンダ、パレスチナ・ガザ、フィリピン、インドネシア、ミャンマーなどに広がっています。

元々は高校時代に受けていた東進ハイスクールのDVD授業から着想を得たそうですが、20歳そこそこで世界中を飛び回って教育改革を実行する行動力が凄いです。しかも彼は1989年生まれでまだ現在でも25歳です。日本の未来に可能性を感じさせてくれる若者です。

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ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAMAZONの隆盛

ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAMAZONの隆盛
リチャード・ブラント (著), 滑川海彦 (解説) (その他), 井口 耕二 (翻訳)

まず初めにAmazon.comやジェフ・ベゾスに関する本を読んだことがなかった私にとっては結構面白い内容でした。最近はAppleやFacebookの創業話が映画にもなっていたし、ある程度イメージがありましたがAmazonに関してはあまり知りませんでした。

本の中身はジェフ・ベゾスの伝記的内容からAmazonのスタートアップ時代と最近の話まで長い時系列の文章になっています。
ジェフ・ベゾスはプリンストン大学卒業後にウォール街の金融取引システムのエンジニアからキャリアをスタートしていて、かなりエリートコースを歩んだ後にAmazonを創業しています。

その後、世界最小にして最大の小売業に発展したのは皆さん御存知の通りかと思います。また最近では2000年代後半からKindleやアマゾン ウェブサービスのクラウドビジネスにも展開をしています。

特に、Kindleはそれまでの書籍を売るというビジネスと喰い合う関係に思えることから、展開に踏み出していることは革新的なのではないかと思います。

Amazonがロングテールを掴んで成長したという話はWeb2.0が話題になった頃から耳にしていましたが、その舞台裏は当時あまり触れられていませんでした。Googleと2年違いに創業されたAmazonという会社の生い立ちを知るには良い本です。

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V字回復の経営―2年で会社を変えられますか

V字回復の経営―2年で会社を変えられますか
三枝 匡 (著)

業績不振に陥っている日本企業の事業再生を描いた小説形式のビジネス書です。
この本は著者が実際に行った事業改革の経験を複数組み合わせて書かれたストーリであるため、全体としてはフィクションになっているが一つ一つの出来事は実際に企業で起きていたことだそうです。
物語の主軸はK社という東証一部上場企業がモデルとなっており、計5社の実話が組み合わさっています。

経営者レベルの視点という意味では私には遠いように感じますが、物語が実話をもとにしているため、臨場感は強烈に伝わってきます。数年前にも読んで最近になってまた読み直したのですが、前回も今回も物語を読み進めている間は胸が熱くなりかなり感化されます。

この本で描かれている経営者の本質は「熱意」と「戦略」にあるのではないかと思います。

「熱意」については、不振事業の立て直しを絶対にやってやるという覚悟があり、ただ声を上げるだけの改革ではない経営者の背水の気持ちのようなものがありました。
また、「戦略」は日本企業と米国企業の違いについての比較論含め現場の情報を元にした深い課題分析から、事業組織を変えて現場の仕組みまで落とす緻密な計画立てが描かれています。

そこで働いた人々は経営者の「熱意」「戦略」によって、ハードワークをしながらも成果をあげていきます。

「問題解決」というと巷に溢れる言葉のように感じますが、まさにこれぞ「問題解決」というストーリーが描かれた手触り感のある本になっています。

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見知らぬ妻へ

見知らぬ妻へ
浅田 次郎 (著)

全八話が書かれた短編小説集で、タイトルの「見知らぬ妻へ」は経営していた会社が倒産して札幌から上京してきた中年男性の話。新宿歌舞伎町で客引きの仕事をしていたその男はある日、外国人女性との偽装結婚をすることになる。その見知らぬ妻へいつのまにか惹かれていくという内容です。

目次
スターダスト・レビュー
かくれんぼ
うたかた
迷惑な死体
金の鎖
ファイナル・ラック
見知らぬ妻へ

この作品は人々の現実や日常の中にある出来事を描いて、独特の物寂しさを感じさせます。浅田次郎の小説を多く読んだことがあるわけではないのですが、物語の内容自体はとても現実的なのに特別な郷愁のような感情を沸き起こすその文章は印象的です。

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NASAより宇宙に近い町工場

NASAより宇宙に近い町工場
植松 努 (著)

「どうせ無理」という言葉を世の中から無くし、多くの人が「だったらこうしてみたら?」という発想に変わることを提唱する植松努さんの著書。植松さんは株式会社植松電機の創業者で、本業はリサイクル用マグネットの製造と販売を行っており会社は北海道赤平市という場所にあります。植松電機では本業の傍ら、宇宙開発事業をやっておりプラスチック(ポリエチレン)を燃料とした安全性の高いロケットや人工衛星の開発を行っています。

また、植松電機は世界に数台しかない微小重力実験装置(宇宙空間と同様の環境を再現する実験装置)も自社で開発して所有しています。宇宙開発といえばJAXAやNASAのような国家事業をイメージしますが、植松電機では北海道大学と協力して民間企業としてそれを行っています。

元々は植松努さんの夢だった宇宙開発ですが、冒頭のメッセージを世界に伝えるために自分がやれることを考えた結果この事業をやることになったそうです。そのため、植松電機では宇宙開発事業による利益はほとんど出しておらず、全国の小・中学生の見学を受け入れてミニチュアロケット開発教室の取り組みなどを通して「だったらこうしてみたら?」のマインドを世に広めています。

先日、TEDxSapporoで講演されていた植松努さんの話を聞いて読んでみた本でしたが、大変興味深い内容でした。

みなさん、「どうせ無理」と考えるのをやめて「だったらこうしてみたら?」という考え方をできるよう心がけたいですね。

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沢木 耕太郎

登山家の山野井夫妻がヒマラヤ山脈のギュチュンカンに挑戦した際の経験を描いたノンフィクション作品。7日間に渡る登攀によって二人は手足に重度の凍傷を負うことになります。

高所の登山には一般的に二通りの登り方があります。大規模な登山隊を組んで少しずつ標高の高い場所にキャンプを張っていくのが極地法、もう一つはアルパインスタイルと言い少人数で最小限の荷物を持ち短期で登頂するスタイルだそうです。世界七大陸の最高峰が登頂された現在では後者のアルパインスタイルでの初ルート開拓が登山家の醍醐味とされています。

山野井泰史はアルパインスタイルの第一人者で、多くの高峰を初ルートで登頂している方です。この本ではその中でも最も困難だったと思われるギュチュンカン峰への挑戦が描かれています。登山に興味のない人でも標高7,000メートル以上の場所で7日間に渡って悪天候や雪崩の試練を経験する世界観は興味深い内容だと思います。

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